遺言全般についてのFAQ
3. 長男に事業を継がせ、次男には預金を残してあげる予定です。この場合、次男も債務を負うことになるのでしょうか。すべての債務を長男に負担させる方法はないでしょうか。
5. 遺言執行者はどのような場合に必要ですか。必ず、遺言で指定しておくものですか。
7. 相続人以外の者に遺贈する際、特に注意しておきたいことは?
8. 死亡保険金は相続されるものなのでしょうか? 遺言書で受取人を変更することは可能でしょうか。
9. 遺言を残すとき、「逆縁」のことも考えて作成したほうがよいとアドバイスされました。どういうことなのでしょうか。
10. 相続人は、息子と娘だけです。二人とも遠方に住んでいるため、私の死後自宅マンションを処分し、売却したお金と預貯金を公平に残してやりたいと思います。どのように遺言するのがよいでしょうか。
11. 長男に相続させるつもりで遺言書に記載した土地を処分したい。処分して問題ないでしょうか?
12. 父が死亡し、相続人の兄妹3人で遺産分割の話し合いをしたいのですが、妹の行方がはっきりしません。このまま進めて問題ないでしょうか?
解 答
父が遺言を残したかどうかはっきりしない?
遺言書の有無によって、相続の手続きが異なってきますので、まずその有無を調査することが必要です。
遺言の方式を問わず、保管している可能性のある場所や預け先を捜します。銀行の貸金庫、友人など心当たりのある方にも聞いてみましょう。
もし発見できなければ、公正証書遺言と秘密証書遺言については、公証役場に問合せます。最寄りの公証役場に電話で必要書類を聞き、準備してから出向きます。
平成元年以降に作成されたものであれあば、「遺言検索システム」に照会して、その有無を調べることができます。それ以前のものは、可能性のある公証役場を順次確認していきます。
作成したことが確認できれば、公正証書遺言は、謄本(原本の写し)を交付してもらえます。
秘密証書遺言は、原本が保管されていませんので、再度、可能性のある場所を捜すほかありません。(年間100件程度、利用の可能性は少ないと考えられる)
借金も遺言で承継させることができますか?
遺言できる事項は法定されており、借金のような消極財産については、遺言事項の対象外です。遺言に書いても、対外的には、効力を持ちません。
借金のように分割できる債務は、法定相続分に応じて各相続人が責任を負うとされています。
従って、遺言に「長男に全ての債務を承継させる」と書いても、他の相続人は、債権者に対して、「遺言のとおり、長男に請求してください」と主張することはできません。
債権者は、各相続人に法定相続に応じて請求することができます。
ただし、債権者が、長男がすべての債務を承継することを承諾すれば、他の相続人は免責されます。これを「免責的債務引受」と呼び、債権者と契約を締結する必要があります。
もう一つは、「並存的債務引受」です。他の相続人が法定相続分の割合で責任を負い、長男が債務のすべてを引き受けます。
この場合、長男が返済能力を失うと、他の相続人は負担した割合で返済しなければなりません。債権者にとっては、有利な契約といえます。
なお、遺言のない場合に遺産分割協議で債務の負担者を指定したとしても、債権者の承諾がなければ、意味のないものとなります。ご注意してください。
長男に事業を継がせ、次男には預金を残してあげる予定です。この場合、次男も債務を負うことになるのでしょうか。すべての債務を長男に負担させる方法はないでしょうか。
次男は、債務の請求を拒むことはできません。
「債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときは、これに応じなければならず、相続債権者との関係では、各相続人が法定相続分の割合に応じて、相続債務を承継する 最判平成21.3.24」
この場合、次男に預金を相続させるのではなく、「遺贈する」方法があります。遺贈は、相続人以外の者に遺言で財産を贈与することですが、相続人に対しても行えます。
次男は、相続開始後、相続放棄をすれば、初めから相続人でなかったことになり、債務を免れることになります。
葬儀費用の支払を遺言で指定しておくことはできますか?
葬儀費用については、法律上の規定がなく、その位置づけについて争いもありますが、遺言者の死後発生するものですので、相続財産には含まれません。従って、当然に遺産の中から支出されるべきものではありませんし、相続分に応じて各相続人が負担すべき相続債務でもありません。
原則、喪主(葬儀の主宰者)が負担すべきものされています。
しかし、葬儀費用の負担をめぐって、後日もめることも多く、遺言で定めておくことは有益です。
たとえば、「○○の財産を換価処分し、遺言者の葬儀、埋葬等にかかる費用を支払った後の残額を、すべて妻○○○○に相続させる」あるいは、「遺言者の葬儀、埋葬等にかかる費用を次の○○から随時その支払いにあてることができる」など、様々に定めることができます。
遺言執行者はどのような場合に必要ですか。必ず、遺言で指定しておくものですか。
遺言での認知、推定相続人の廃除、この二つは、遺言執行者だけが執行権限を持ちます。必ず遺言で指定しておきましょう。
指定がされてなければ、相続開始後であっても、相続人など利害関係人の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を選任することができます。
その他は、必ずしも指定の必要はありませんが、遺言内容を確実に執行し実現するためには指定しておくことをお勧めします。
主な職務は、不動産の相続手続き、預貯金の解約や名義変更、相続財産の換価処分とその清算配分、一部相続人の執行妨害の排除など「相続財産の管理から、その執行に必要な一切の行為をする権限と責任」を有します。
ポイントは、遺言内容に即して、遺言執行者の執行権限を具体的に記載しておくことです。よりスムーズに遺言内容の実現がはかれるでしょう。
遺言執行者は、未成年や破産者以外であれば、相続人であっても指定することができますが、相続人間に無用な軋轢を生むことを心配され方もいらっしゃいます。その場合は、複数の指定も可能ですので、相続人1名と共に、行政書士など専門家を指定しておくことをお勧めします。
長年生活を共にしている内縁の妻に財産を相続させたい。
内縁の妻は、一定の法的権利が与えられていますが、相続させることはできません。たとえ結婚式を挙げ、どんなに長年共に暮らしていようとも相続権は発生しません。また、内縁の妻が、あなたの財産の維持増加に貢献をしたとしても「寄与分」の制度を受けることもできません。
ただし、あなたが亡くなったときに、相続人が一人もいない場合に、内縁の妻が家庭裁判所に請求すれば、「特別縁故者」として、あなたの財産の一部又は全部を分与してもらえる可能性があります。
財産を譲るには、@ 婚姻届を提出し法律上の夫婦になる A 生前に贈与する B 遺言で財産を遺贈する これら三つの方法が考えられます。
もし、婚姻届けを出せないご事情がおありでしたら、AかBの選択になります。
Aの生前贈与は、「贈与税の配偶者控除」が認められていませんので多額の贈与税を覚悟する必要があります。年間110万の基礎控除は利用し、何回かに分け贈与する方法を検討されたほうがよいでしょう。
Bは、遺言書で内縁の妻に「遺贈する」方法です。税金は、生前贈与よりも低く抑えられる可能性が高いです。遺贈には、「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。
特定遺贈は、特定の不動産や預貯金を内縁の妻に贈与する方法です。「A土地を内縁の妻、○○に遺贈する」
包括遺贈は、相続財産全体の中で、1/3というように割合で指定したり、財産全部を包括的に贈与する方法です。「すべての財産を内縁の妻、○○に包括して遺贈する」
もし、あなたに法律上の妻がいれば、
内縁の妻にすべての財産を包括遺贈しても、法律上の妻には遺留分が認められますので、内縁の妻は、あなたの財産の1/2しか取得できないことになります。注意が必要です。
さらに、生命保険の受取金は相続財産ではありませんので、内縁の妻を受取人にしておけば、保険金を残すことができます。
残された奥様の生活を考え、早めに相続対策することをお勧めします。
生前贈与も遺贈もメリット・デメリットがあり、その内容も複雑です。また、遺贈されるにしても、包括遺贈と特定遺贈で効果や手続きが異なり、残された内縁の妻の負担も変わってきます。
思いを実現するには、どの方法が最適か、事前に相談されることをお勧めします。
相続人以外の者に遺贈する際、特に注意しておきたいことは?
遺贈は、遺言者の生前の意思として、誰に何を贈与するのか自由に決めることができます。
ただし、法定相続人の遺留分(最低限の相続分)を侵害する遺贈である場合は、相続分を侵害された法定相続人が、受遺者に遺留分減殺請求を行使する可能性を考慮しておかなければばりません。
特別の事情がなければ、遺留分を大きく侵害する遺言は避けた方が無難です。
遺贈には、財産を特定し贈与する「特定遺贈」と財産の一定割合を指示する「包括遺贈」があり、効果が異なります。
大きな違いは遺産分割協議への参加と債務の負担にあります。
特定遺贈では、贈与する財産が明確になっているため、相続人と遺産分割協議をする必要がありません。また、特定財産の贈与を受けるだけですので、遺言者の債務まで承継することもありません。
一方、包括遺贈では、受遺者は相続人と同一の権利義務を持つとされます。そのため受遺者は、遺贈された割合に応じて、遺言者の債務も自動的に承継します。
遺贈される財産についても、特定遺贈と異なり、遺産分割協議に参加し、利害が対立しやすい相続人と具体的な内容を話し合わなければなりません。
こうしてみますと、お世話になった方や親しい友人などに遺贈する場合には、包括遺贈は大きな負担を強いる可能性があるといえます。その適否を慎重に判断する必要があります。
死亡保険金は相続されるものなのでしょうか? 遺言書で受取人を変更することは可能でしょうか。
死亡保険金は、保険契約に基づき受取人に直接支払われる金銭ですから、たとえ受取人が相続人であっても、相続財産ではありません。受取人の固有の権利として取得する財産であると考えられています。
ただし、受取人が被保険者自身の場合、自分のために保険契約をしたと考えられるため、相続財産とされ遺産分割の対象となります。
遺言書での受取人変更は、平成22年4月1日から施行された保険法に明文化され、可能となりました。(注1)
保険法第44条
@ 保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
A 遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力が生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。
Aは、保険会社の二重払のリスクを防止する規定です。相続開始後、遺言による受取人の変更を相続人又は遺言執行者から保険会社に通知しなければなりません。通知しない間に、従前の受取人に保険金が支払われてしまうと、遺言書で指定された受取人は、保険金の支払請求ができなくなります。
注1 保険法施行前に締結された保険契約には適用されません。ご注意ください。
遺言を残すとき、「逆縁」のことも考えて作成したほうがよいとアドバイスされました。どういうことなのでしょうか。
逆縁とは、子が親よりも先に亡くなることです。遺言で例えますと、相続させる長男が親よりも先に亡くなることをいいます。
この場合、長男に子(孫)がいれば、その子が代襲相続するのではないかと思われるかもしれません。従来、代襲の有無について、下級審も対立していましたが、最高裁は、「遺言者が、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有しているとみるべき特段の事情がない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。最判平成23.2.22」と判断しました。
従って、「長男に財産の1/2を相続させる」と遺言していても、特段の事情がない限り、その部分は効力を失い、遺産分割協議でその財産の帰属を話し合うことになります。(当然、代襲相続人である孫も遺産分割協議に参加します)
アドバイスされた方は、上記のようなケースを想定されていたのでしょう。
あまり考えたくないことではありますが、このように逆縁が生じたときのために、あらかじめ、相続させる相続人、あるいは遺贈する者を定めておきます。例えば、「長男が、遺言者の死亡以前に死亡したときは、孫に相続させる」、「長男が、遺言者の死亡以前に死亡したときは、長男の妻に遺贈する。」などです。
このような万が一の場合に備えた遺言を予備的遺言と呼んでいます。
予備的遺言は、逆縁だけに限らず、相続人が相を続放する場合を想定し定める場合もあります。
相続人は、息子と娘だけです。二人とも遠方に住んでいるため、私の死後自宅マンションを処分し、預貯金と一緒に現金を公平に残してやりたいと思います。どのように遺言するのがよいでしょうか。
マンションその他全ての財産を換価し、預貯金を払戻して1/2づつ相続させる遺言が考えられます。いわゆる換価分割です。
換価分割以外に、現物分割(マンションは息子に、預貯金は娘になど、均等な割振りが難しい)や代償分割(息子がマンションを相続、息子が娘に代償金を支払う)がありますが、換価分割が最も明確で公平性が担保される方法です。
長男に相続させるつもりで遺言書に記載した土地を処分したい。処分して問題ないでしょうか?
遺言に拘束されることなく、売却等自由に処分することができます。その土地の売却など処分すれば、遺言書のその部分は撤回されたものとみなされます。(前の遺言と抵触する法律行為をした場合 民法1023-2)
しかし、財産の配分比率が変わったり、遺留分が発生する可能性もありますので、遺言書全体をみて書き直しすることをお勧めします。